ダイビングスーツの種類、特徴、あなたにはどれがいい? 選び方のポイント紹介

ダイビングといえば、そのイメージで最も多く登場するのが真っ黒いウェットスーツを着たカッコいい姿ではないでしょうか。確かにかっこよく、ベテランやプロのダイバーの姿のイメージとして定着している感じがあります。

ダイビングを始める前やライセンスの取得の前に最もよく聞かれる質問の一つが「ウェットスーツって購入が必要ですか?」というものです。

ウェットスーツはダイビングのスーツの一つの種類ですが、ダイビングのイメージと紐づいて、質問される方がとても多いです。

しかし、実際には、スーツにもいくつかの種類があり、ダイビングの環境や頻度に応じて購入するかどうか、購入するならどのくらいのグレード/価格のものを購入するかなどを決めなければなりません。

そして、購入する際におすすめできないものも少なからずあり、このあたりの見極めも必要です。

ここではダイビングスーツに関わる疑問にお答えしていきたいと思います。

そもそもダイビングスーツとは何か?

ダイビングスーツとは、スキューバダイビングにおいて着用する専門のスーツのことで一般的なイメージとしてウェットスーツがあります。

実際には、それ以外にもドライスーツやセミドライスーツなど、いくつかの種類があり、ダイビングする環境や温度に合わせて使い分けることが一般的となります。

スーツの大きな目的は、体温を維持する、浮力の確保、皮膚の保護など、水中という特殊な環境下で快適に過ごすことができるようにするもので、基本的にダイビングでは必須です。

ごくまれにウェットなしで潜水している南の島の漁師の映像なども流れますが、非常に特殊で、訓練と経験が深い達人レベルの話なので、参考にはしないほうがいいでしょう。

では、どのような種類がスーツにあるのか、簡単にみていきましょう。

ウェットスーツ

ダイビングをイメージしたときに最もよく出てくるものだと思います。ダイビングのツアーのパンプレットや雑誌でもほとんどがウェットスーツを着たダイバーです。

ウェット、という名前のとおり、スーツの中に水が入り込みますが、スーツと皮膚の間にある水を体温で温めることによって体温を維持します。

水が入るといってもほんの僅かな少量です。

逆に言うと水がどんどん入ってきてしまう(入れ替わりが早い)ようなスーツでは保温効果は全く期待ができません。ウェットスーツとは、つまり、皮膚と水との接触を「極力少なくする」ことで保温する、というものなのです。

そのため、既にお気づきと思いますが、体に合っているスーツでないと水がどんどん入ってきて保温効果がなくなります。逆に水が入らないようにと小さすぎるものを着ても苦しいだけなので、できれば身体の形に合わせてオーダーで作った方がよい、ということになります。

もちろん、オーダーになれば価格もしますので、よく考える必要があります(ただし、ダイビングスーツの中でも比較的安価ではあります)
じゃあウェットをとりあえず買おう!と考える人もいるのですが、そこはちょっと慎重に。

ウェットスーツの中にも種類がいくつかあります。素材の違い、裏生地の違い(これは保温性に大きな違いがでます)、ネオプレーンというゴム素材の厚み(これも非常に大きな性能の違いがある)、ファスナーの数(ファスナーが脱ぎ着はしやすくなりますが、先ほどの通り水は入り込みやすくなる)、ダイビングする海の水温、オーダーメイドの採寸の仕方(メーカ―などにより異なる)などなど。

これらの要素を検討して購入が必要です(というより検討が必須)。なので、少し購入までによく考える時間を設けることをお勧めします。

そして、この要素はウェットに限らず、ドライスーツなどでも考える必要がある項目なのです。

この「どうやってこれらの要素を考えるか」については、この記事の後半に触れていきたいと思います。

ドライスーツ

ウェットスーツとドライスーツの違い、はよく聞かれることです。

水に触れることを前提としたウェットスーツに対して、水に濡れないことをコンセプトにしたのが、ドライスーツ。

ドライスーツは、全身をスーツで覆い、ブーツとも一体型にすることで、首から上と手首以外は全く水に触れないように設計されており、体温が水に奪われることを抑えられるようにしたものです。

ある意味、保温性については最強のスーツ。めっちゃ温かい。ウェットだと寒くて長時間いれないこともあるのに対して、長い時間居ても平気。

真冬のダイビングも可能。「え?冬も?」と言われることもありますが、ドライスーツをもっていると何の問題もありません。冬の最高に透明度の高い海を楽しむことができます。

水温が15−30度に変化する本州でのダイビングでは、ドライを持っていたほうが長いシーズンダイビングを楽しむことができます。
夏だけ、リゾートだけ、というダイバーはウェットスーツ、ダイビングを年中楽しみたい方はドライスーツから購入するというイメージもあります。

デメリットは、温かすぎる、というケースがあること。真夏の時期と常夏のリゾート地域では、汗をかき過ぎるという点があります。

それとウェットスーツと違って、体とスーツの間に空気を入れるので浮力が大きく、スーツ内の空気の出し入れ操作がいる、というのが挙げられます(空気の出し入れはBCDというスーツとは別に浮力調整する器材と同様なので、比較的はやく慣れますが)

その他の特徴としてウェットスーツより価格が高いということがありますが、こちらはその保温性能の高さとウェットスーツよりも複雑な構造をしていることが理由となります。

セミドライスーツ

セミドライはウェットスーツの弱点である水の侵入を極力抑えるように手首や首、ファスナー部分に防水加工を施したタイプ。
しかし、完全に抑制できるわけではありません。

温かさでいうとドライスーツには敵いませんが、ウェットよりはよいので、水に濡れてもいいから長く楽しみたいという人には最適な選択肢かもしれません。

フード

スーツではありませんが、結構大きな違いを生み出すのが頭から被るフード。水中で最も体温が奪われやすい部分の一つが頭部なので、そこを保護することで冷えを抑えます。

フードの有無で寒いと感じるかどうかはかなり違います。冷えないと体力も残るので比較的安価、簡単に冷えを防ぐ方法となります。

ベスト

ウェットスーツの中や上から着ることで保温効果を高めて、冷えを抑える役割を持つものです。ファスナー付きのタイプや、フード付きのタイプなど、いくつか種類があります。

スーツと同じくネオプレーンでできていて、厚みにより保温効果が異なります。

グローブ

水中で意外にも冷えを感じやすいのが手。人によっては体は全然大丈夫なのに、手が冷えすぎてダイビングが長い時間楽しめないという方もいるほど。人間の体のセンサーが集まっているところだから、敏感なんでしょうね。
ダイビングでは保温効果のあるグローブ(手袋)と、単純に皮膚を守るためだけのグローブの2種類があります。
手が冷えてさむいという方は保温効果のあるものをお勧めします。正直、保温効果があるとないでは全然違います。

ブーツ

こちらもグローブ同様に足先を守るものです。基本的には、フィンとのスレや船の上とかビーチを歩く時に足裏を守るもので、必須です。最近は保温効果も高めたフィット感のあるモデルが主流です。
こちらも保温効果があり、とても暖かいです。グローブも同様ですが、暖かすぎるという人もいるくらい。
なお、ブーツについては、実は保温効果だけではなく、フィンとの相性などもあるので、しっかり選んだ方が良いと思います。

ダイビングスーツはなぜ必要なのか?

必要な理由のまず一つ目は、「体温が下がるのを防ぐ」ことです。

人間の体温は、水中では空気中の25倍の速度で奪われます(低下する、冷える)。奪われる速度は、人間の体温と水温の差でも変わります。人間の体温は36度前後が平熱で一定になっていますので、水温のほうがが低ければ低いほど、早く体温を奪われます。

沖縄を除く本州、関東地方くらいまでの緯度の地域では、日本近海の海の水温は8月中旬から10月上旬頃まででピークを迎え、その後、低下して冬には15度前後になります。

ダイビングスーツを着ていない通常の衣服や水着では、水中に長くいると体温が奪われて次第に低体温になっていきます。

ダイビングではそのような状況にならないようにスーツの着用が基本となります。
30度以上の温かい海も確かにありますが、海水の温度は流れによって変わりやすく、同じ海でも深さで大きく違います。したがって、基本的にスーツの着用は必要です。

また、水中、特に海中は色んな生物がいて、時々危険な生物もいます。そのような生物が攻撃してくることはなくても、思わぬ形で接触してしまうことはあり得ます。その際に身を守るためにも着用が必要となります。

スーツの役割のもう一つが浮力の確保です。

ダイビングでは浮力をコントロールすることが大事になります。
人間の体は重いので何もしなければ沈んでしまいます。ダイビングでは水中に身体を浮かせて、まるで無重力空間にいるかのように自在に動くことで楽しみます。逆に脚をどこかに付いたりすることは少ないです。

環境保護意識の高い海外の一部の地域では、ダイビング中に脚をついたり触れてりすることで、サンゴや生物を傷つけてしまうことがあるので、常に浮いていられないのであれば(浮力を保てないのであれば)、ダイビングできる場所を限定するなどの場合もあり、非常に厳しい管理をしていることもあります。
なので、浮力を上手くどう管理することが大事で、浮力を持たせる一つの役割をスーツがに担っているのです。

どうやって選べばいいか?

では、どうやってダイビングスーツを選べばいいのかについて解説していきます。
大きなポイントは3つです。一つ目は「形」、二つ目は「スーツの素材など」、三つ目が「ダイビングのスタイル」。そして、それらを踏まえて、最後に価格です。
一つひとつ見ていきましょう。

形の違い

スーツには形がいくつかあります。
首から上と手首、足首を除く、全ての部分を覆うのが「フルスーツ」。全体が繋がっていてつなぎ目がなく、覆われている部分も多いので保温性に優れているのが特徴です。
次にフルスーツと同じ様に全身を覆うけれども上下で分離されているのが「セパレート」半分に別れているので脱ぎ着が楽、という特徴があります。
手首と足首まで保護されていない7分丈の様なモデルもあります。腕が途中まで保護されるのがシーガル、腕も脚も途中まで保護されるスプリング、足は保護されているが上半身は肩までのロングジョンなどがあります。
形により違いはありますが、通常はフルスーツが一択です。理由は汎用性。海水温が違っても対応することができますし、同様の理由で長いシーズン着ることが可能です。
シーガルやセパレートは、プロレベルで頻繁に海に入って、しかも陸に上がって脱ぎ着が頻発する人や、リゾートで温かすぎる海でしか潜らない現地のインストラクター、流れが激しい/地形が複雑などでいろんな動きをするので動きやすいもの出ないと困るなどのケースが多いと思います。
上記の様な特別な理由がなければ、フルスーツがお勧めです。
なお、形とは違いますが、関連する項目として、ファスナーの数と位置も重要です。
ファスナーをつける目的は脱ぎ着をしやすくすることですが(ファスナーがあると断然着やすい)、ファスナー部はつなぎ目ができるので、水は入り込みやすくなることが多いです。したがって、保温効果が下がってしまうというデメリットもあります。
最近はファスナー部にジップを設けたりすることで水の侵入を最低限に抑える工夫もかなり進んでいます。

素材の違い

ダイビングスーツはゴム素材で出来ています。普通のゴムではなく、ネオプレーンという特殊な素材で、小さな気泡を練りこむことで熱の伝導性を低くして水に体温が奪われるのを防いでいます(発砲スチロールと同じ原理)。
当然、空気が入ってるので浮力もあります。
スーツの色は、ゴムの素材の上に別の素材の生地(ジャージと呼ばれています)を張って、そちらに色を付けることでピンクや黄色、青、白などの色を出しています。またゴム素材が表面に出ていないので耐久性もあがります。
ジャージ生地にコーティング剤を施して耐久性を強化したのが「ラジアル」と呼ばれるもので、高級な上位モデルに使われることが多いです。
ジャージ生地を使わないでゴムの素材のままで表面がツルツルしているのが「スキン」と呼ばれるタイプです。こちらは水が切れるのが早いという特徴がありますが、ゴムが表面に露出しているので、ひっかき等に弱いことがあります。

生地の厚み

ネオプレーン素材の厚みは非常に大きな性能の違いを生みます。一般的には3mm、5mm、7mm(6.5mmが種類としてあります。
厚みがあればあるほど、保温性能は高まりますが、浮力も高くなります。浮力が高すぎると浮力のコントロールがしやすい様に”重り”を持つ量が慣れるまでは一時的に増える場合もありますので、バランスも必要です。
水中に長くいるプロレベルは、浮力のコントロールもマスターしている一方で、長く水中にいることが多いので厚みのあるモデルを選びます。
ビギナー(エントリー)レベルと中級者であるからといって、薄くなければいけないということはありませんので(どちらにしても慣れるので)、予算などに応じて検討するのが良いでしょう。

他のスポーツのウェットスーツとの違いは?

よく質問があるのがサーフィン用のスーツとの違いです。スーツといえば、オープンウォータースイミングやトライアスロンでもスーツがあります。
これら、サーフィンやトライアスロン用のスーツと、ダイビング用のスーツの大きな違いは、以下の点があげられます。

①保温性の違い

保温性については、ダイビング用と、サーフィンやトライアスロン用の比較では、ダイビング用が勝ります。

理由はダイビングではサーフィンやトライアスロンと違って水中に長くいて、動きもゆっくりなので、保温性が高くないといけない、という環境の違いが主です。
ただ、サーフィン用やトライアスロン用はウェットスーツがほとんどですが、例えばサーフィン用は冬用のウェットスーツもあり、こちらはダイビングスーツに負けないくらいの温かさがあるモデルも出ています。

しかし、サーフィン用は根本的に水上で使うことを想定して作られており、動きやすさを出すなどの目的でネオプレーンと呼ばれるゴム素材に含まれる空気の気泡もダイビング用に比較して大きくなっています。そのため、水中の深いところにいくとゴム素材の中の気泡が圧力で潰れてしまい、保温性が低下する恐れがあります。
その、水圧に対する耐久性の観点からサーフィン用のスーツをダイビングに用いることはおすすめできません。
もちろん、サーフィン用とダイビング用を兼用するスーツもありますが、モデルやメーカーの数は限られていて、選択肢が少ないのが現状です。

②動きやすさの違い

保温性のところでも書いたように、サーフィンやトライアスロンでは激しく動くことが求められるので、スーツも同様に動きやすく作られています。例えば、トライアスロン用では水泳がしやすいように肩周りの動きがしやすいようになっています。伸縮性が全然違います。

一方でダイビングは、激しく体を動かすことはないので、しっかり、保温性に重点を置いて作られています。スーツの作りもがっちりしていてしっかりしています。

③生地の違い

生地もサーフィンやトライアスロン用とは異なります。
保温性のところで書いたように、ダイビング用はゴムの内部の気泡がつぶれにくいように耐久性が持たされています。ゴムなので伸び縮みしますが、水中では圧力を受けるので、ゴムの厚みも縮んでしまいます。

ゴムの厚みが縮むと水と皮膚の距離が近くなるので、その分、水によって体温が奪われやすくなり、保温性が著しく低下します。
トライアスロン用は生地の表面はスキンというタイプでツルツルしています。これは水の抵抗をできるだけ少なくして早く泳げるようにしたものです。対して、サーフィンやダイビングでは、そのような水の抵抗を下げる必要性よりも耐久性が重要視されますので、スキン以外の生地が選べるようになっています。