日本でも有数のダイビングスポットである伊豆。ここでライセンスを取得し、世界の海に羽ばたいていったダイバーも多いのですが、伊豆そのものも世界的にも有数のポイントとして知られています。その理由は、黒潮という世界的にも最大規模の暖流の影響と、雨が多い日本の沿岸部には陸からの豊富な栄養が供給され豊かな生態系を創り出していること、温帯性気候にあたる豊かな四季の影響などがあげられます。
そんな環境の多様性が海の生物にも多様性を生み出しています。今回はそんな伊豆の海でどんな魚がダイビングで観察できるのかということについて解説してみたいと思います。
伊豆の地理的な特性
伊豆と一言で言ってもその特徴は地域により変わり、ダイビングにおいて観察される生物も異なります。
伊豆半島の東と西、そして南では雰囲気が変わりますし、気候も違います。また、伊豆大島や御蔵島、利島などの伊豆七島、さらには八丈島までの諸島部ではその特徴が大きく異なります。このように伊豆の場合は地理的な特性の影響も色濃く受けます。
例えば、ダイバーに人気が高く、ダイバーの数も多い東伊豆では温帯性の気候の影響を強く受ける一方で、黒潮の影響が濃い南伊豆や西伊豆では比較的温暖な気候となるという性質もあります。陸上でも花の咲く時期が微妙に違うなど、その差は海の中だけではありません。
海の季節とは
伊豆の海の魚についての話をするときには伊豆の海の季節について、まずは話をしないといけません。実は伊豆の海には海の季節というものがあります。伊豆の海にはどんな季節があるのでしょうか?
日本には四季というものがありますが、伊豆の海にも四季があります。
春、夏、秋、冬
4つの季節ごとに見れる生物が変わります。
伊豆の夏海
それではまずイメージしやすい夏の海から見ていきましょう。
実は伊豆の海の夏は8月の後半から9月にかけて始まります。
え? 、 8月の後半から9月ですって?夏は終わっているじゃないの?と思われるかもしれません。
そうなのです伊豆の海の8月末から9月に始まるのです。海水温の上昇は6月から始まるのですが陸の気温の上昇に対して、海の中の海水温の上昇は約1ヶ月ほど遅れます。
そのため、外の気温が上がる6月末から7月は伊豆の海の中はまだ5月頃といったところです。
外の気温の上昇に遅れること約1ヶ月、 8月の末から9月にかけて海水温の上昇がピークに達し、伊豆の海の夏が始まります。
お盆を過ぎるとクラゲがたくさんいるだとかいろんなことが言われますが、伊豆の海の中の夏はそこからが本番です。クラゲとの関連性はわかっていませんが、水温が温かくなる時期とクラゲの出現も関係があるのでしょう。
ただ、ウェットスーツを着ているのでダイバーにはクラゲの出現はあまり関係がありません。むしろ、水中で見るクラゲは神秘に満ちた姿をしていて、とても美しいものです。
ともあれ、8月末ごろから快適に暖かい海を潜ることができます。
そして、季節回遊魚と言われる、南の島から温かい黒潮に乗って伊豆にやってくるカラフルな魚たちもこの時期から伊豆の海ではよく見れるようになります。
このように8月末ごろから、外の気温がまだ暖かい10月下旬までが伊豆の海の夏と言うことになります。
夏の時期の伊豆の魚たちはとても元気で、多くの魚を見れます。カラフルなキンギョハナダイの群れ、イサキやタカベ、シイラ、時々イルカやカメも見れますし、運がよいとマンタが見れます。ジンベイザメも出ることも。。。。伊豆の海も南国の海に負けていませんね。
ちなみに、伊豆の海の中の夏は8月から始まりますが、実質的には外の気温が温かい7月から10月の末までは、海の中も温かいので、非常に快適なダイビングが楽しめます。伊豆の夏は、外の夏と海の夏、両方があるということですね。
伊豆の秋海
では伊豆の海の秋はいつから始まるのでしょうか。伊豆の海の秋は10月末から11月にかけての非常に短い時間になります。しかしこの時期は海の中が最もカラフルな季節といっても良いでしょう。
外気は次第に気温が下がっていく時期ですが、まだ海の中が温かく、南の島からやってくる季節回遊魚の数も増え、伊豆の海はかなりカラフルで賑やかな雰囲気になります。
何より、ダイバーの数が減る季節(笑)
夏よりも楽しい季節なのに、もったいないです。
季節回遊魚たちはこの頃は伊豆の海に住みついて、次第に体も大きくなり、海の中は大きな個体から小さな子供の個体まで幅広く見れるようになります。12月に入る頃までは海の中も温かく、また透明度も比較的高い日が続くので、この時期がある意味ではベストシーズンと言えるかもしれません。
伊豆の冬海
12月の中旬を過ぎる頃には伊豆の海の水温は下がり、外気もぐっと下がり、年末にかけて水温も低くなります。外気の気温は冷たくなっていくので、ウェットスーツからドライスーツと言う濡れないスーツに変わるのも11月中に行われます。水温と外気の温度が非常にミスマッチなのもこの時期の特徴です。海の中のほうが温かいので風邪には要注意です(笑)
冬の海は12月から3月ごろまでにかけてなのですが、伊豆の海が最も綺麗なのは実はこの冬の季節なのです。
なぜなら、海の中の水温が下がり、それによって浮遊物が減り、透明度がぐっと上がります。日によっては40メートル近くの透明度になる時もあります。40mといえば、沖縄や海外リゾートと同じくらいの透明度です。この時期の海は本当に美しいです。
この時期になると見れる魚はガラッと変わります。やや深くて冷たい水に生息するヒラメやアンコウなどの珍しい魚達が見れるようになります。
そして、写真のように伊豆海洋公園には12月になるとクリスマスツリーが海の中に現れます!
運がいいとクジラに会えるのもこの季節です。伊豆周辺でもクジラは回遊してくるので、シーズンに数回はダイビング中に水中でクジラと遭遇、ということがニュースになります。
冬の海にも色んな楽しさがたくさんあります。通なダイバーにとっては、冬の海なくして伊豆の海なしです。
伊豆の春海
そして外の気温が暖かくなる3月を過ぎると伊豆の海は春の海になります。
伊豆だけではなく日本各地で起こる特異的な現象ですが、3月中旬から年によりますが約2週間、「春濁り」と呼ばれる透明度が低下する時期があります。その原因は海中のプランクトンなどの浮遊物の急激な増加です。原因は実はよく分かっておらず、冬の間に海の底と表面の水の温度差がなくなることで栄養の多い下層の水が上層と混ざり合い、それが気温の上昇と共にプランクトンの大量増殖を呼ぶとか、中国から飛んでくる黄砂の中にミネラル分が多量に含まれていてそれが海に落ちることで栄養となりプランクトンを増やすとか、いろんな説があります。
いずれにしても海の中のプランクトンは増えていて、海中の栄養分が極めて高い状態になります。漁師の方ではこの春濁りが魚を育て、海を豊かにすると考えている方もいらっしゃいます。実際、栄養価が高くなるので、その通りなのかもしれません。
原因の究明は、海洋生物学者の皆さんにお任せするとして、ダイバーの視点としてこの時期は本州各地のダイビングポイントで、透明度が3mくらいまで落ちることもあります。3mなので、先を行くダイバーがかろうじて見えるくらいの透明度です。この中でダイビングをする場合は水中ライトはもちろん、ダイビングのスキルも要求されます。3mまで透明度が下がることは滅多にないにしても、透明度が下がることは海外のダイビングスポットでもあり得ることで、そういった状況でもダイビングが出来る、という経験は非常に重要です。
特に南国の海はいつも安定して透明度が高いというイメージがありますが、海外でも川の水が入り込んだり、プランクトンの大量発生で透明度が急速に悪化することもあり得ます。したがって透明度の高い海だけを潜ることが必ずしも良いとは限らず、いろんなスタイルや状況を経験しておくことが、長期的にダイバーとしてのスキルを高めます。なお、透明度が低い場合、ダイビング自体はマクロという小さいものを見るスタイルになります。この春濁りの時期だけはライセンス講習は少し待った方がいいかもしれません。
春濁りが2週間くらいで終わった後の4月中旬以降は、伊豆周辺では黒潮の影響の度合いにより水温や透明度が変わります。春濁りほど酷くはならないですが、透明度が下がる日もあったり、逆に冬や真夏のようにスコーンと抜ける日も在るなど、バラエティ豊かな感じが続きます。
この時期の生物としては、何といっても、春の海に北からやってくる季節回遊魚の代表であるダンゴウオです。かわいいダンゴウオはこの季節しか見れないのです。
このように季節折々に異なる魚たちを見ることができるのが、伊豆というダイビングスポットの
醍醐味です。
いかがですか。その季節折々に見れる魚達との素敵な出会いがまっていますよ。