ダイビングのライセンス取得を計画されている方や、すでにダイバーになっている方からのよくある質問で「耳抜きがうまくできない」というものがあります。
耳抜きなんて、普段そんなに意識してやる動作ではないから、基本的には耳抜きはほとんどの皆さんが苦手なんですよね。
ダイビングにおいては耳抜きができるかどうかはとっても大切です。水中では水の深さにより水圧がかかるため、耳抜きが出来ないと怪我やトラブルの基になってしまいます。でも、病気の方を除いては全く耳抜きが出来ないという方は非常に稀で、コツをつかめば出来るようになるものです。
耳抜きは、体の健康状態のバロメーターでもあります。普段は耳抜きになんの問題がない方でも、耳抜きが出来ない時には、何か体調不良や病気が潜んでいる場合も。
今回は、その耳抜きを上手にする方法について考えてみましょう。
そもそも耳抜きって何なの?
そうなんです、まず耳抜きって一体なんなのか?ということが意外に知られていません。
耳抜きとは、「耳にある鼓膜の外側と内側で圧力に差ができたことを解消すること」なのですが、簡単にいうと、鼓膜を押し込んだり、引っ張ったりする力を逃がして解放してあげることです。
水中では、体に水圧がかかります。その水圧は当然耳にもかかるわけで、その圧力が鼓膜を押したり引いたりすることで耳に違和感が出たり、ゴモっとした感じになったり、痛みが出るわけです。
ゴモっとした感じになるのは、通常は鼓膜が震えてその振動が耳の中に伝わることで音が聞こえるようになりますが、鼓膜が引っ張られたりしてうまく震られない状態になっているのでゴモゴモした感じがするということになります。
これを解消するために、鼓膜が普段どうりに震えられるようにいつもの状態(過剰に引っ張られても、押されてもいない状態)にすることが耳抜きということになります。
では、そもそもなんで圧力差ができるのか?を考えてみましょう。
例えば、エレベーターに乗っているときとか、飛行機に乗って離陸や下降した直後など、耳抜きが必要になりますよね。あれは、元々いたところから急に気圧の違うところにいくと耳の鼓膜の外側(気圧)と鼓膜の内側の空間(体内)で圧力が異なることで鼓膜の内外で圧力に差が生じるためなのです。
鼓膜の内側には、耳管などと呼ばれる空間があり、鼻とつながっています。そこには空気があるので鼓膜と外と中で圧力差が生じてしまうのです。しかし、鼻腔〜耳までの空間は非常に細くて詰まりやすいのでなかなか空気が通りにくいのです。従って、口や鼻から息を吸い込んだり吐いたりするだけでは、耳の内側の空間の空気まで入れ替わらないのです。
そこでわざわざ耳抜きという動作をして、鼻や口のほうから空気を耳内側の方に強制的に送ることで耳管を開き外気との圧力差を解消しようとするわけです。
水中での耳抜きの方法
耳抜きの方法としては、一般的には2つほど考えられます。
①鼻をつまんで息を耳のほうに送る方法:バルサルバ法とフレンツェル法
鼻をつまんだ状態で息をしっかり吸います。その後、口も閉じて息を止めた状態で耳に空気を送る気持ちで少しぐっと力を入れてみる。そうすると、肺や口の中にある空気が耳管(内耳)のほうに行き、耳管が開いて空気が外気と平衡になることで解消されます。
両手を使って鼻をつまんで鼻の穴を塞ぐ方法をバルサルバ法、片手の親指と人差し指で穴を塞ぐ方法がフレンツェル法といいますが、一般的なのはフレンツェル法です。
②鼻をつまんで唾を飲むこむ方法:トインビー法
鼻をつまんで唾を飲みこむ方法もバルサルバ法と基本的な原理は同じです。ぐっと力を入れる代わりに唾を飲みこむことで耳管周りの筋肉も動いて耳管が開きます。
どちらがあっているのかは個人によっても違うので色々試してみましょう。①のほうが慣れると確実かなとは思います。
上手にできるかどうかは陸上からすでに始まっている
ここまで書くとお気づきだと思いますが、要するに耳抜きは耳管を開くこと。耳管を開きやすい人は耳抜きも得意。耳管が開きにくい人や耳管が開きやすい人でも鼻づまりしている人、耳管が細い人、寝不足やお酒飲み過ぎなどの翌日は耳管がむくんで、耳抜きしにくいということになります。
では、どうやったらいいのか。
まず、耳抜きは耳管を開くという動作なのですが、基本的に練習できます。
ダイビングなどの水の中ではなくても耳抜きを練習しているといつも簡単に抜けるようになったります。従って、日頃から耳抜きの練習をするというは効果的です。
あとは耳管を開く方法として耳管の周りの筋肉を動かしやすくしておくというのも考えれます。これは、ガムを噛んだり、食べ物をよく噛んで食べるようにすることで鍛えることができます。
水中での耳抜きをスムーズにする方法
シャークアイでお伝えしている方法は以下のようになります。どこでも使えるので是非参考にしてみてください。
①ダイビングの前の日などは体調管理をよくすること。
特に、鼻の周りと鼻の中(喉も)を乾燥させないこと。乾燥することで粘膜が腫れて、詰まりやすくなることで耳が抜けにくくなります。
②ダイビングの前日まで、および当日のダイビングまでに耳抜きの練習をすること。
うまく抜けなくても焦らなくていいので、やっておくと水の中で抜けやすくなります。
③ガムなどをダイビングの前に噛んで耳の周りの筋肉をほぐしておく。
普段から食べ物をよく噛むなどすることで筋肉は鍛えられますが、大事なことは「ほぐす」ということなので力を入れて噛むということでなくよく動かしてしっかりマッサージするようなイメージです。
④マスクの鼻の部分をつまめる練習を陸上でしておくこと
水中では水中マスクをつけていますが、そのマスク越しに鼻をつまむと、実は結構つまみにくいです。ですので、事前に陸上でマスクをつけた状態でしっかりつまめるように練習しておくこと
⑤潜るとき(潜降時)はこまめに鼻をつまんで抜くこと
そのときジタバタしない。焦ると鼻もつまめないし、呼吸が乱れるので耳ぬきしにくい。
⑥もし抜けなくて痛みを感じたら
もしも実際の水中で耳が抜けなくて痛みを感じたら、耳の痛みが感じないところから。それよりも上まで一旦上昇して、耳抜きをしてから再び潜降を開始すること。
絶対に耳が痛いままで潜航を続けてはいけません。
このようにいくつかのコツがあるので、ライセンス取得時に限らずいつでもインストラクターの方に相談してみると良いでしょう。
ダイビング中に耳抜きができなかったら
もし、ダイビング中に耳抜きが出来ない場合、どのように対処すればいいかですが、基本的に耳抜きは潜降時、つまり水中に潜る時に発生します。
起きやすい深さとしては、水面から深さおよそ5mのところまでで起こります。この時点で耳抜きがしにくいなと思ったら、まずは一度落ち着いて呼吸を整えることが大事です。緊張していると、耳の周りの筋肉も硬くなるので抜けにくくなります。落ち着く方法ですが、呼吸を少し長ーく吐くようにしましょう。そうすると徐々に落ち着いてきます。
このダイビングの5mくらいまでの深さの時点は、その日の調子や耳抜きしやすいかどうかがわかります。痛いようでしたら無理に潜降しないことがポイントです。5mくらいのところだと難しいですが、痛くないのであれば出来れば少し同じ深度を保ち、耳抜きを落ち着いて行った時に急に抜けることもあります。
絶対に止める必要があるのは、さらに深い水深まで潜っていくこと。「深くなれば自然に抜けることもありますよ」という指導も見かけますが、非常に危険なので絶対に止めましょう。
ただし、水面5mくらいはは浅瀬あれば安定していますが、ボートダイビングなどで流れているところだと流されてしまうという可能性もありますので、インストラクターやガイドの判断によっては固定可能な安全な岩場まで誘導するために多少深いところまで一気に連れていくという判断もあり得ます。
ここは「流されるほうが危険」というプロの判断になりますが、どういう判断をするかはその場で決めるよりも事前に判断が出来るとトラブルを回避できます。予め「耳抜きが苦手」「抜けないと耳がすごく痛くなる」などの普段の状態をインストラクターやガイドに予め伝えるようにしましょう。そうすることで、ガイドする側もプロとしての的確な判断ができるようになります。
恥ずかしがったり、遠慮して伝えておかないと判断を誤り危険な状態になり得ますので、自分と周りのために伝えることをためらわないようにしましょう。
耳抜きは一度抜けるとその後も抜けやすくなる場合がありますが、その逆もあり、ダイビング中、何度も抜けにくいということもあります。重要なことは、一度抜けにくいと感じたら、その深度よりも深いところには絶対に行かないということ。その深度と同じか、より浅いところでないと耳は抜けません。
とはいえ、浅い方、浅い方と思っていると急上昇してしまう可能性もありますので、慎重にゆっくりと深度を保つかほんの少し浅いところにゆっくり移動して耳抜きをしながら抜けるかどうかを確認する、という動作がベストです。
水中で深度を保つためには中性浮力という、水中で同じ深さでホバリングするスキルが非常に重要です。この中性浮力(英語ではピークパフォーマンスボイヤンシー、ダイビング業界では略称としてPPBと呼ばれます)はダイビングにおける最も重要なスキルの一つであり、耳抜きにも使えますので是非身に着けるようにしましょう。
どういう時に耳抜きがしにくくなるか
最後に、どういう時に耳抜きがしにくい状況になるか、です。
まず粘膜が腫れている状態になっていると耳抜きはしにくいです。粘膜が腫れている状態は、風邪や花粉症などのアレルギー状態、乾燥などによって引き起こされます。
口から鼻、耳の内耳まではほとんどが粘膜で覆われているのでそこが腫れることによって、詰まり、抜くことが難しくなります。鼻水や鼻詰まりも同様です。
それ以外の状況としては、鼻の穴や耳の穴の形状が抜けにくい構造になっている場合(鼻の構造はとても複雑で個人それぞれに大きく異なります)があります。あまりにも抜けにくい場合は、病院で一度診察してもらうとよいでしょう。
もう一つ気になる状態としては中耳炎などの病気。この状態も粘膜も腫れますが、体液が溜まっていたり、耳の機能が低下したり、複合的な要因を引き起こすことがありますので要注意です。そもそも耳抜き以前にダイビングそのものも中止して病院で診察と治療を受けましょう。病気の状態を悪化させる危険性もあります。
最後にありがちなパターンは前日の夜更かし、疲れ、アルコール摂取、タバコ等です。夜更かしは粘膜の機能を低下させるだけでなく寝不足による体調不良で他の異常も引き起こします。疲れも同様です。ダイビングの前日は基本的にアルコールの摂取は控えましょう。アルコールは体の脱水を引き起こして粘膜の乾燥を招いたり、粘膜の細胞を過剰に刺激したりして、ダイビングにおいては百害あって一利なしです。
タバコを習慣的に嗜まれている方は出来ればダイビングを機に止める!ということも検討ください。耳抜きに対する影響は軽微と思われますが、そもそも浮き輪としての役割でも肺をよく使うスポーツなのでタバコでのダメージは好ましくありません。
以上、ダイビング中の耳抜きの方法となりやすい状況などについて解説してみました。
耳抜きは人によって様々で体調にも左右されます。しかし、誰でも一度は絶対に経験しています。ま自分の体のクセをしり、普段から少しずつ体に慣れさせることで出来るようになることも多いので、焦らずにじっくり体と向き合ってみましょう。